簿記試験を超えて⑱ 技術立国の現実

日本は長年「モノづくりの国」「技術立国」だと言われてきました。
それにもかかわらず、
今まで適切な原価管理の仕組みを進化させてこられなかったことは日本の悲劇です。

「ムダ取り決死隊」「全員参加で徹底的なムダ取り」
「コストハーフ、やればできる」
「私たちはできないとはいいません」

会計を使わずに、いつまでも勘と気合いだけが頼りの経営、
危うい設備投資、空疎なスローガン、
できるはずもないコストダウンや在庫削減の目標・・・

いつ頃からか、私たちはすっかり正論を言わなくなりました。
全力で取り組むことなしに
「できたふり」だけするという悪習を身につけてしまったようです。

以下は、ある名門企業から私の工場に転職してきた若い作業者との会話です。

「吉川工場長、やはり私にはわかりません。
会計なんて、何の役に立つのでしょうか?」

「僕らが会計を学ばなければならない理由かぁ・・・
例えばね、以前、ある海外工場でこんな出来事があった。
そこでは400%の生産性向上の祝賀会があったのだけど、それを誰も疑問に思わない。

でも400%の生産性向上なんて変だろう?
何が達成されたのか全くイメージが湧かない。

それで調べてみたら、どうやら毎年15%の生産性工場を10年間続けたという意味だと分かった。
でもね、経理部に尋ねても損益は10年間変わっていないというし、現場に聞いても工場の景色は変わっていないという。

それでね、15%という報告の根拠になっていた作業日誌と経理のタイムカードを突合してみたんだ。

そうしたら、ちょうと15%の作業者、つまり450人分の日誌が見つからなかった。
作業記録を欠いた支払いは、会計監査なら横領を疑えと言われる場面だ。
そんなことにすら気付かずに会社は祝賀会をやっていたわけだ。

実態が無いのに勝った勝ったと騒ぐのは日本の歴史的な負けパターン。
会計を使わない活動は、膨大なムダを生むんだよ」

「悲しい出来事ですね。
そういえば、私が前に勤めていた会社でも同じような出来事がありました。

ある製品の工期を3ヶ月から2ヶ月に短縮するよう命じられたのですが、
絶対に無理な指示だったので、2ヶ月で完成したと報告し、検査データも適当に作って提出したのです。
(これ、捏造っていうのですかね)。

人の命に関わる製品だったので本当は良くないことだと思ったのですが、上司の指示だったので仕方ありませんでした」

「辛い経験だったね。
でもね、そもそも報告された原価の誤りすら検証できない今の会計って、何なのだろうかとも思う。
もはやそれは会計の名に値しない。

僕たちはしっかり会計を学び、しっかり会計を使わなければならないけど、会計ももっと進化してわかりやすく使いやすいものにならなければならないのだと思う。だから、新しい会計を作ろう!」

「え、それって、経理やCFO、会計士さんや、もっと凄い方々の仕事じゃないんですか?」
「そうじゃないと思うよ。
日々、原価と戦っている僕たちが言いださなければ、簿記や原価計算なんていつまでも進化しやしない。

実際、今使われている原価計算だって、大昔に現場の実践の中から作られたものなのだから。
本当の会計とは、現場の課題を見える化し、僕らを正しく導くためのものだ」

今、皆さんはどうやって日々の目標を決め、その結果を確かめているのでしょう。
日本中の現場がコストと戦っていますが、正しい会計が無ければ活動は無駄になるのです。

私たちにはもっとできることがあります。正しい会計さえあれば!

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