簿記試験を超えて⑯ 付加価値会計の誕生

ところで、なぜ今までの会計は、製造部門の費用(売上原価になる)と非製造部門の費用(販管費になる)を分断してきたのでしょうか?

調べてみると、それは約100年前にデザインされたものだと分かりました。

それはもちろんインターネットも携帯電話も電卓すらない時代。
アメリカのフォード自動車が大量生産のベルトコンベア・システムを考案した頃、
ロシアでは社旗主義革命の真っ只中だった頃です。

経営者と工場の作業者の激しい労使対立を背景に、作業者を厳しく管理するために作られたのが従来の会計の起源だったのです。

「これは現場を叩くためだけの会計だ。
新しい何かを創り出すための会計ではなかったのだ!」

実際、製造部門を販売部門や一般管理部門と一体管理すべきだという話しをすると、しばしばこんな御指摘をいただきます。
「とてもヒューマンな発想ですが、そんなことをすれば製造現場の連中が遊んでしまいます」
そう言われるたびに私はぞっとします。

こうした指摘を下さるのは一般管理部門のホワイトカラーの方ですが、図らずもこれでは「私たち一般管理部門は遊んでいます」と宣言しているに等しいからです。

そして、製造部門ばかりが厳しく叩かれているという現実も見えてきます。
1分1秒までムダを取り上げられた現場には、もはや明日を創造する力が残っていません。

現場を叩くだけの一般管理部門の生産性は地に墜ち、日本の生産性は先進国最下位となりました。
叩かれる人が居る限り、叩く人(ホワイトカラー)の生産性は絶対に上がらないのです。

ぜひ考えて見てください。
今日、単純な繰り返し作業はAIやロボットが担う時代です。
それでもAIやロボットだけが並べられた無尽の会社はあり得ません。
それは一体なぜか?
それは人と人の新しい繋がりや、新しい業務のやり方や、新しい製品・サービスを創り出せるのが人だけだからです。

それを「イノベーション」と呼びます。
製造現場でも販売部門でも、イノベーションこそがこれから人が本当にやるべきことです。

そして一般管理部門の使命は、イノベーションが起きる仕組みを作ることなのです。

しかしイノベーションは強制できるものではありません。
イノベーションを起こすには、主体的に動ける人材の育成が必要です。
主体的な人材を育てるには、人を信頼して時間や予算を任せてみなければなりません。

この時、任せた資源をムダにしないためには生産性の測定が必要になります。
生産性が伸びていなければ支援や指導をし、生産性が伸びていればもっと多くの資源を任せることで人材が育つからです。

そして生産性を測るには付加価値を知らなければなりません。
なぜなら生産性とは付加価値を生み出す活動の効率のことだからです。

パワハラでは人は育ちません。
怒鳴ってもイノベーションは起きません。
21世紀の今日、ブルーカラーとホワイトカラーを区別する意味はすでになく、全員で力を合わせてイノベーションに取り組む時代になったのです。

そんな時代に必要な会計は、会社全体の活動を一体的に管理し、事業活動の付加価値と、それを生み出す活動の効率(すなわち生産性)を明らかにするものでなければなりません。

「付加価値を問う新しい会計が必要なんだ!」
遂に私は、日本のモノづくりを元気にするための1つの方法を見つけ出したのでした。

この新しい会計を、私は付加価値会計(バリューフロー)と呼んでいます。

関連記事

RELATED POST

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


PAGE TOP
MENU
お問合せ

TEL:080-2090-1172

(月 - 金 9:00 - 18:00)