私は、1日も早くモノづくりの現場に戻ることを願っていました。
修了考査の合格発表を見届けると、直ぐに転職活動を始めました。
私が目指していたのは監査ではなく、会社の合理的な経営だったからです。
ところが、
いざ転職活動を始めてみると、強みになると思っていた会計の知識が逆に邪魔になりました。
エージェントからこんなことをいわれたのです。
「吉川さんが5年間監査法人にいたことはキャリア上のブランクと見做されます」
「技術と会計が入り混じっていて支離滅裂だ。何をしたいのか全く分からない」
何度も繰り返される同じ質問に、私は今日の日本の製造業の病の深さを見たのでした。
「私が会計を学んだ理由、ですか・・・
工学は自然科学の利用によって効用を得るものです。
工学に従事する技術者は常にコストと性能を見比べて効用の最大化を図らなければなりません。
それが工学というものですし、理学とは大きく異なる部分です。
ですから技術者も会計を学ばなければなりません。
新製品の開発、コストダウン、生産性の向上、思い切った納期の短縮、新しい生産設備への投資、自動化の推進など全ての技術的活動がコストとの戦いです。
ですから原価計算や設備投資のための会計知識がなければ適切な活動は不可能です」
「そう言われれば、そうかもしれません。
でも、会計士まで取る必要があったのですか?
簿記くらいで十分だったのではないかと思いますが」
「私も簿記から始めましたが、簿記はとても難しいと感じました。
そして何度も何度も挫折を繰り返すうちに1つの疑問が湧いてきたのです。
『なぜ簿記はこんなに難しいのだろうか?』と。
次第に私は簿記そのものが間違っているのではないかと考えるようになりました。
少なくとも今の時代に合っていないのではないかと。
だからこそ簿記は難解で、必要な場面で役に立ちません。
役に立たないから誰も積極的に使わず、面白くもないのです。
では本当はどうあるべきなのか?
そう思って簿記の研究をしていたら会計士になってしまったのです。
会計をとことん極めた技術者であればこそ、数字を作る場面と数字を使う場面を全てしっかり見渡して、コストダウンや生産性向上やイノベーションを力強くリードできると確信します」
「でも、会計士はやはりオーバースペックです。
当社にそんな知識は必要ありません」
この「オーバースペック」という言葉に私は何度ぶつかったでしょうか。
その消極的な響きに、今の日本の経済社会に活力が無いことの1つの原因を見る思いがしました。
「なんだか悔しいな・・・
一人分のお給料で技術者と会計士の2人分頑張ると言っているのだから、『掘り出し物ですねぇ!』と言ってもらえると良いのにな」
他方で、中国や欧米系の会社からは積極的な評価をいただくケースが多く、対照的だったのです。
「技術も会計も分かるのですね! 英語もマネージメントの経験もばっちりだ!」
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