私は以前から在庫削減をしなければならない理由について悩んでいました。
そこで、ある在庫管理セミナーに参加してみたのです。
テーマは「在庫は罪子、在庫削減待ったなし!」
隣に熱心にメモを取っている方がいたので、休み時間に尋ねてみました。
「あの、すみません。どうして在庫は罪子なんでしたっけ?」
「いや、あの、在庫は罪子ですから」
その方は答えを持ち合わせていませんでした。
やむなく、セミナーが終わってから講師の方に尋ねました。
「恥を忍んでお伺いいたします。どうして在庫は罪子なんでしたっけ?」
「いや、あの、とにかく在庫は罪子ですから」
おどろくべきことに、講師の方にも明確な答えはなかったのです。
皆さんは、どんな答えをお持ちでしょうか?
「在庫削減(ゼロ在庫)」は、
ジャストインタイム購買が最善とされてきた製造業では疑われることのなかった鉄則ですが、
流通業などではゼロ在庫ではなく「最適在庫」が志向されてきました。
「言われたら仕入れます」なんて悠長に構えていたら、流通業は成り立たないからです。
もちろん流通業といえども、無駄に仕入れれば損をします。
ですから流通業(一部の優秀な流通業)は、
常に顧客目線で「最適在庫」を模索し、そのノウハウを競争力の源泉にしてきました。
こうした状況は、
自社都合を振り回して顧客の都合を顧みず「ゼロ在庫」を志向してきた製造業とは対照的です。
近年の生産技術のコモディティ化によって製品力を失った製造業がすっかり輝きを失ってしまったのは、当然と言えば当然の帰結だったと言えるでしょう。
以前、私が工場を預かっていた北欧外資の会社でも「ゼロ在庫」が厳しく要求されていました。
しかし、北欧本部の工場から送られてくる特殊な原材料の納期が長くて不安定だった上、夏休みになると2カ月ほど完全に活動が停止してしまうことから、販売活動の障害になっていました。
納期が長すぎることによる失注
納期が長すぎることによる値下げ要求
納期が守られないことによる顧客の喪失
こまめに発注することによる運賃の負担・・・
そこで、本部に説明して(つまり本部の方針に逆らって)、かなり多めに原材料在庫(長期間保存しても痛んだり腐ったりするものではありませんでした)を持つことに決めました。
結果として、
営業部門は納期に縛られない強気の受注で売り上げを伸ばしましたし、
調達部門はまとめ買いで運賃を節約できました。
コロナ禍やスエズ運河の事故による世界的な物流混乱の影響も免れたのです。
もちろん、
常に、全ての在庫を持った方が良いと思うわけではありません。
サプライチェーンを見渡せば、在庫には5種類あります。
①原材料在庫、②仕掛在庫、③製品在庫、④売上債権、⑤現金預金です。
②仕掛在庫と③製品在庫は、今後とも持ち過ぎに注意すべき場面が多いと思われます(目標回転数を高めにする)。
①原材料在庫については、値引きの可能性、相場の変動、供給途絶リスクを考慮しながら一定の備蓄をすべきでしょう(目標回転数を低めにする)。
そして工場在庫だけではなく、
④売上債権や⑤現金預金にも注意を払わなければ、資金運用の効率管理としては片手落ちです。
そもそも5つの在庫を区分しない、一律のゼロ在庫などという目標設定はは、あまりにずさんだったのです。
今、私はこう考えます。
①材料在庫は「財子」
②仕掛品は工程間の「差異子」
③製品在庫は「罪子」
④売上債権は見えない「罪子」
⑤現金預金は現金預金です。
これらの全てをしっかり見渡しバランスよく最適化することが、厳しい時代を生き抜く道です。
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