簿記試験を超えて⑨ 道は示された!

監査法人への転職が決まった頃になってから、漸く私は上司に呼ばれました。
「会社を辞めろだってぇ? それは保健の先生の伝え違いだよ。
俺はそんなこと知らないぞ、本当に困るよなぁ」

こんな風にして、辞める辞めないの話は突然撤回されたのでした。

全てはお互いの誤解に発したことだったかもしれません。
しかし既に道は定まっていました。もう引き返す積りはありません。

「吉川課長、その知識と経験を生かしてもう少し会社で頑張ってみないか?」
「申し訳ございません。しかし既に気持ちを整理し、次の目標を決めてしまいましたので」
「会計士なんて虚業だよ。モノづくりこそ日本を支える実業ではないか」

私もかつてはそう考えていました。
しかしモノづくりをしているはずの会社の現実もたくさんの虚業に満ちていました。
もうこれ以上、同じ失敗を繰り返すわけにはいきません。

とはいえ既に44歳。
この年齢で全く新しい仕事をゼロから覚えられるのかどうか酷く不安を感じました。

そんな心情を察してか、保健室の先生はこんな励ましの言葉を下さいました。
「良かったですね。
吉川さんには何か不思議な力があるからどこに行っても大丈夫、きっとうまくやれる。
自分の力を信じなさい。
実は私もね、まだこの会社に来たばかりで不慣れだった頃、吉川さんが気を配って下さったので随分と救われていたのですよ」

改めて人と人との縁の不思議さを思います。

転職をする日の直前になって、何かに引き寄せられるように多くの方にばったり出遇い最後の挨拶をすることができました。

「吉川課長が撒いた対話の種は、その後の会社を変えました。今では全員が協力して頑張っています。
吉川課長と一緒に仕事が出来て本当に良かったです」

研究所の廊下では、私に圧力をかけた本人だったのかもしれない副社長と鉢合わせました。
私が悪びれずに真っ直ぐに挨拶をしたことに、副社長の方が慌てていたようでした。
「私は人の言葉に惑わされ、君を誤解していたのかもしれない。申し訳なかったと思う」

そして保健室の先生からは、最後にこんな風に励まされました。

「先生、私は何でも誠実に頑張ってきた積りです。
でも会社では何をやってもうまく噛み合わない・・・ 私はどうするべきでしょうか?」

「組織の中ではどんなに周囲に気を配っても上手くいかない場合はあるでしょう。
何かを変えるって、やはりとても大変なことですよ。
でも、全く同じ提案でも、外部の人の提案なら案外と簡単に受け入れられたりもします。
例えば会計士さんとかね。人ってそんなものですよ。

それにね、ここに居てはどうしても学べないことだってたくさんあるじゃないですか。
合格できて本当に良かったですね。一度、しっかり外で勉強をしていらっしゃい」

実は、先生の長女は公認会計士だったのだそうです。
人の縁は本当に不思議です。

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