簿記試験を超えて⑦ 進路が決められない

2007年11月19日の合格発表の日、私は自分の番号を確認すると新幹線に飛び乗りました。
技術者、年齢、在職、通信講座というハンディを乗り越えて、とうとう合格してしまったのです。

こうして合格した以上は、監査法人の話しも聞いておきたいと思いました。

よく晴れた日でした。
秋の澄み切った空気の中、東京に向かう車窓からは富士山がきれいに見えていました。
その富士山をぼんやりと眺めながら
「さて、これからどうすれば良いだろう?」
と、とりとめもなく考えました。

最初に受けたのは監査法人トーマツの面接でした。

今後の進路について考えがまとまっていませんでしたが、どうやら3次面接までクリアし、状況も理解できないままタクシーに詰め込まれてしまったのです。
連れて行かれたのは入社祝賀会の会場でした。その会場の入り口でのこと・・・

「では、この入社承諾書にサインして下さい」
私はいきなりペンを持たされました。

「あ、あの・・・ 入社するかどうかを決める前に、まず、今までの技術者としてのキャリアを生かせる業務があるかどうか御検討下さると伺っているのですが」
「は? では、少々お待ち下さい」

白紙の入社承諾書を目の前の机に置いて、待ちました。
会場の奥から漏れてくる祝賀会のざわめきを聞きながら、まだ見ぬ世界に思いを馳せました。

そして1時間後、
「これから慎重に検討し回答しますので、1週間ほどお待ち下さい」
結局そんな話になり会場を後にしました。

私はその足で次の監査法人の面接会場へと向かい、再び最終面接まで進みました。

「・・・ところで転職すれば、初年度の年収は現状の5割減程度になります。それで良いのですね? 技術者としての20年のキャリアを捨ててしまって良いのですね?」
という話になり、結局は
「まあ、しっかり転職の意思が固まったらまた来て下さい」
という結論になりました。

3番目の監査法人の面接も同じでした。

夕方、喫茶店に入って熱いコーヒーをすすりながら私は考えました。
「いつの間にか、合格、合格と思い詰めて勉強してきたけれども、自分が本当にやろうとしていたことは一体何だったのだろう?」
「監査法人に入らなければ公認会計士としての登録はできない。しかしそれだけのために収入を5割も減らす価値があるのだろうか?」

翌日、今度は大手ではなく中堅クラスだといわれる監査法人の面接も受けてみました。
応対して下さったパートナーさんは、自分とちょうど同じ位の年齢の方でした。

「同じ世代として心配です。本当に転職しちゃっていいんですか?」
「うちでも大手さんと同様、待遇については自由が利きません。若手の新人と同じ給与となります。
しばらく情勢を見極めてから再度検討した方がいいのではありませんか?」
「はあ・・・」

意思が固まらないままこれ以上の面接を受けても無意味でした。
残りの監査法人との面接を全てキャンセルし、群馬に帰ることにしました。

そして数日後、最初の監査法人トーマツから検討結果の連絡がきました。
回答は「不採用」でした。

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