厳しい経営環境の中、
「精密な原価計算をして、製品の収益性を正しく判断しましょうね」と
会計専門家から指導される場面が増えました。
こんな時、「精密な原価計算」という言葉で想定されているのは、
たいていは精密な固定費配賦をした原価計算であるようです。
一旦、固定費を集計した上で、
3段階、4段階、5段階で「精密に」配賦計算しましょうといった感じ。
しかし、そんな固定費配賦は、
間接変動費の配賦と激しく混同されてきたことに注意を払わなければなりません。
例えば、
間接変動費(工場にメーターが1個しかない場合の電気代など)は
生産量見合いで発生する費用ですから(変動費ですので)、
配賦すべき費用であり、配布可能な費用(配賦単価は安定する)でもあります。
しかしこの事実をもって、
真の固定費(工場長の給料など)まで配賦すべきだというのは
粗雑な議論だったと感じます。
真の固定費を配賦すると、配賦単価が暴れて使い物になりません。
真の固定費を配賦すると、例えばどんな不都合が起こるのかを、
数値事例(実話を単純化した事例です)で考えてみましょう。
ある工場では、
3つの製品(製品A、製品B、製品C)を生産しており、
全ての製品が変動利益(付加価値)で黒字、
工場全体でも、固定費を差し引いても黒字でしたが、
固定費の配賦計算まではしていませんでした。
そこで会計専門家から、
「どんぶり勘定は止めて、きちんと原価計算しましょう」
と指導され、固定費配賦を実施することになったのです。
計算してみると、
製品Aが赤字だとわかったので早速生産中止を決めました。
「収益性が悪い製品が分かってよかった!」
ここで改めて原価計算をしてみると、
今度は製品Bが赤字だとわかったので、生産中止しました。
(製品Aが負担していた固定費が回って来たからです)
「収益性が悪い製品が分かってよかった!」
再度、原価計算をしてみると、
最後の製品Cも赤字だとわかったので、生産中止しました。
(製品A・製品Bが負担していた固定費が回って来たからです)
結局、製品A・製品B・製品Cのすべてが生産中止され、
工場は閉鎖されてしまったのです。
「あれ、工場は黒字だったはずなのに。どこで判断を間違ったのか?」
これが、固定費を配賦するということの実態であり、
日本中で繰り返されている経営判断の失敗です。
どんなに「精密」な配賦計算を行っても、
正しい経営判断が導かれなければ、意味がありません。
「正しい配賦ってどうすれば良いのですか」という質問をいただくこともありますが
「正しい配賦など存在しない」というのが私の答えです。
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