逆転の発想、非作業日誌

以前、ある工場を預かっていた時、私は作業者の皆さんの生産性指標の構築で困っていました。

一人一人の成績が甘くなり過ぎると、工場のパフォーマンスが悪化し、本部から工場全体の評価を下げられてしまいます。
不適切な指標を使えば不平等感を生じることもあります。

望ましいのは、
その指標を良くしようとする努力が、本当に一人一人の、そして工場全体のパフォーマンスの改善に繋がっていくようにすることです。

従来、国内で一般的だった生産性指標は、新旧の実績時間を比較して生産性向上を評価するという方法です。これは約100年前の科学的管理法に由来する評価方法ですが、いくつかの限界を生じていました。

例えば作業者の方々は、ある製品の去年と今年の作業時間を比較して、
「こんなに生産性が向上したんだ! だから良い成績をつけて欲しい」
と主張します。

しかし製品は一品一様だったため、比較できるものが少なく、網羅性がありませんでした。

作り方の影響もうけます。
一度に2台作るのと、10台作るのでは、1台当たりの作業時間がまるで違います。

もっと困ったのは、
せっかく特定製品にかかわる作業時間を短縮しても、その分、煙草を吸っていたのでは工場のパフォーマンスが改善しないことです。

それに、仮に無駄な残業があっても、それを評価に反映することもできません。

悩んだ挙句、私が考え出したのは、従来通りの「作っていた時間(作業時間)」を報告してもらう方法ではなく、「作っていなかった時間(非作業時間)」を報告してもらうという方法でした。

勤務時間から非作業時間を引けば、作業時間は分かります。

そして、
この非作業時間として引ける時間を、あらかじめ作業者と合意しておくことで(作業者が提案することもできる)、作業者を望ましい活動に誘導することを目指しました。

非作業時間として合意した時間は、例えば、
✓自分自身のスキルアップのための時間
✓新入社員の指導のための時間
✓安全のための活動の時間
✓自主保全の時間
✓技術開発に協力した時間
✓重要な会議の時間、等等等・・・

煙草を吸っていた時間は非作業時間と認めなかったので作業時間になります。
ムダな残業があった場合も作業時間が伸びるので評価は下がります。

この評価方法によって、
今まで作業者が嫌がっていた重要な会議への出席や、技術開発への参加を促すことができました。

作業者には、
「作業時間」は、今日の価値を作る時間
「非作業時間」は、明日の価値を創る時間
だということをよく説明しました。

一人一人の成績の評価は、
個人・チーム・工場全体の稼ぎ(望ましくは付加価値、代替的に売上高)を、計算された作業時間で割って求める生産性指標で行いました。

生産性指標が改善していれば良い評価になります。

そしてこの評価には、
会社の業績が悪い時、作業者が自己救済できる仕組みも組み込まれています。

売上が下がって(それは必ずしも作業者の責任ではありません)生産性指標が下がりそうな時、作業者は残業を減らし、自主的に非作業時間を増やすことで、計算上の作業時間を短縮し、生産性指標を挽回することができるからです。

これは、
今日の価値が稼げない時は、少しでも明日の価値を稼ぐ準備(イノベーション)をしましょうねという会社からのメッセージでもありました。

しばしば数字評価は冷たいという言われ方をしますが、
数字で評価しなければ依怙贔屓で評価をしなければならなくなります。

本当は数字が冷たいのではなく、数字の使い方が冷たかったのではないでしょうか?

関連記事

RELATED POST

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


PAGE TOP
MENU
お問合せ

TEL:080-2090-1172

(月 - 金 9:00 - 18:00)