私が社会人になったばかりの頃、
ある小さな設備投資の起案書を役員に提出しました。
上司の課長や部長の提出した過去の起案書を参考にしながら、なるべく要領よく、30枚くらいにまとめて書きました。
ところが役員は、それを見るなり
「薄すぎる!」
といって、1ページも読んでくださろうとしません。
そこで今度は、100枚に増やして持っていくと
「厚すぎる!」
といって、やはり読んでくださいません。
受領されたのは、ようやく5回目。
(結果的に、最初の起案書とほぼ同じものになりました)
それで尋ねてみたのです。
「どうして今回は受領していただけたのですか?」と。
役員の答えはこうでした。
「僕は新人の起案書を4回突き返す。それでも諦めずに持ってきたら、
その意欲に免じて5回目で認可すると決めているのだ」
真顔でこんなことを言われると、ちょっと困りますね・・・
こうした判断の方法を
①勘と気合法
②部長だからOK、新人だからNG法
と私は呼んでいます。
他にも多い判断方法は、
③他社横並び法
④前例踏襲法
最近流行しているのは
⑤プレゼン良ければまあ良いか法
⑥補助金取れちゃった法
昨今、良いプレゼンをして起案をと通そうといったノウハウ本があります。
もちろん起案者が良いプレゼンを試みるべきことは当然ですが、
プレゼンが良いからと言って、それが良いプロジェクトだとは限りません。
補助金取れちゃった法も危険です。
例えば、補助金を使ってある省エネ機器を導入した場合、
後日にさらに良い機器が出ても買い替えは困難でしょう。
事業環境の悪化で、取得した設備投資が重荷になるリスクもあります。
こうした事態を避けるためには、
設備投資案に対して会計的な評価をしっかり行う必要があります。
その代表的なものは、以下の3つ。
⑦回収期間法
⑧NPV法(正味現在価値法)
⑨IRR法(内部収益率法)
このうち、ぜひ使っていただきたいのはIRR法です。
★回収取期間法の問題点
回収期間法は簡便で優れた評価方法ですが、資本コスト(WACC)の達成可否を判断できません。
短期プロジェクトは評価できますが、複雑で長期間のプロジェクトは評価困難です。
★NPV法(正味現在価値法)
NPV法は、正味現在価値の符号のみをチェックする方法です。
プラスならWACCが達成できる
マイナスならWACCは達成できない
という判断をします。
しかし、極めて誤解の多いところですが、
NPVがプラスのプロジェクトが複数あった場合、NPVの大小を比較しても優劣は判断できません。
NPVはプロジェクトの効率だけではなく規模の影響も受けてしまうからです。
初期投資が大きなプロジェクトのNPVが大きいのは当然であり、
NPVが大きいことが、必ずしもプロジェクトの効率を示すわけではないのです。
★IRR法(内部収益率法)を推奨する理由
IRR法では、プロジェクトが達成できる収益率を直接求めます。
WACC 10%を達成したいなら、IRRが10%を超えるプロジェクトを実行すれば良いということです。
ただし、現実のプロジェクトには必ず実行リスクがあります。
計画の甘さ、想定を超えた環境変化などなど。
設備投資は、やってしまうと挽回が効きません。
失敗すれば、日々のコストダウン努力など消し飛んでしまいます。
こうした実行リスクに備えるためには、IRRの認可基準を
✔単純増産プロジェクトなら15%以上とする
✔研究開発プロジェクトなら30%以上とする
などによって、実行リスクを織り込んだ設備投資を実行できます。
こうした判断の仕方ができるのはIRR法だけだということにご注意ください。
NPVの大小の比較に意味はありませんが、
IRRの大小の比較には意味があります。
しばしば
IRR法の予想(キャッシュフローを予測しIRRを判断する)など当たらないという見解もいただきますが、
これは予想ではなく、
「未来を〇〇にするんだ」という経営意思の表明であることを申し添えます。
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