曖昧な名前にすべきだと、叱られた話

私が30歳で簿記2級を学んだ時、
腑に落ちないことがたくさんありました。

特に、売上原価と販管費を分ける理由や、
何が売上原価になって、何が販管費になるのかという区分に、
納得がいかなかったのです(今もですけど)。

驚いたことに、売上原価は変動費ではなく、
販管費も固定費ではないと知りました。

それなら何のためにP/Lを2段書きしているのか?

いろいろ考えてみましたが、
全ての事業活動のうち売上原価(≒製造原価)だけが販売費から切り離されてしまっているのは、
おそらく今日の財務会計の原型が出来上がった100年前の社会情勢を反映しているからです。

当時は、フォードがベルトコンベア式の生産ラインを発明した頃で、
工場と非工場で労使対立が激化していました。
そんな中で、ホワイトカラー対ブルーカラーという構図ができあがり、
ブルーカラーを如何に統治し、スキルある(でも扱いにくい)作業者を、
どれだけ生産作業に向かわせられるかが、
製造業の経営の最大関心事だったことでしょう。

しかし21世紀の今日では、
工場内の作業のかなりの部分は機械化・標準化され、
特定の作業者のスキルに頼るべき部分は少なくなっています。

労使対立は激しくなく、事業活動は高度化し、
生産と販売が協力し一体的に活動すべき時代が来ています。

むしろ、どの部分が生産活動で、
どの部分が販売活動かを見分けることは不可能で、
そこに無理に線を引いてきたことが、
多くの会計的/経営的な問題を引き起こしているのです。

例えば・・・
生産技術者だった頃の私の労務費は、
生産応援と技術開発に区分されて記録されなければなりませんでした。
生産応援なら製造原価になり、技術開発なら販管費になります。
両者は作業日誌の付け方で区分されていました。

でも現実的に、自分の作業のどの部分が作業応援で、
どの部分が技術開発なのか区分することは不可能でした。

作業応援の中に技術開発のヒントはあります。
開発した技術を現場に展開するのは技術開発であり生産応援でもあります。

そして月末になると、四苦八苦して区分した作業日誌を、
工場長のところに持っていき、決済を受けるのですが、
いつもこんなコメントをもらっていました。
「今月は厳しいから製造原価には少なめにつけてください」
「今月は余裕があるから、製造原価にしっかり付けて大丈夫」

生産技術者として
毎日1円1銭のコストダウンに取り組んでいる自分自身の労務費が、
こんな風にいい加減に扱われていることがとても嫌でした。

そもそも、
こんな風に操作された数字で、経理や経営はどんな判断をしているのか?
こうした疑問は、さらにこんな事件で爆破します(私の中で)。

ある画期的な工法開発に成功し、新しい設備を設置した私は、
その設備を固定資産登録しなければなりませんでした。

日頃の問題意識もあり、
なるべく性格が分かりやすい名前を工夫して付けて資産登録してしまった私は、
生産技術部長から呼びだされて、ひどく説教されたのです。

「そんなに分かりやすい名前をつけたらだめじゃないか。
君も管理職なら、いつでもどちらにでも(製造原価でも販管費でも)振れるよう、
曖昧な名前を付けるべきだった。そんな気配りができないでどうする?」
説教は2時間にも及びました。

つい最近には、こんな出来事もありました。
3年前と2年前の固定費実績があまりに違うので調べると、
会社が大きな企業グループから独立したことを契機に、
工場の総務経営部門(製造原価)が、本社機能(販管費)にそっくり切り替えられていました。
もちろん現行の財務会計では正しい処理です。

しかし
会社の事業実態は何も変わらないのに、製造原価は大きく変わってしまいました・・・

等々と考えると、
①数字をなるべく分かりにくくする
②見栄え良く利益を操作しやすくする
以外に、売上原価(製造原価)と販管費を分けているメリットが分かりません。

経営課題をしっかり把握して手当てするための管理会計では、
製造原価と販管費という無意味な区分をなくし、
シンプルに固定費/変動費という区分とすることを私は推奨しています。

厳しい時代を生き抜くために!

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