販管費と売上原価を区別することは会計の常識ですが、
そのことが多くの経営判断の誤りを招いていることを御存じでしょうか?
今回は、そんなお話です。
今から〇十年前のこと、
生産者だった私は、ある新製品の量産準備を命じられました。
「今般、画期的な新製品の試作に成功した。
販売単価は100円、原価目標は80円だが、試作で79.2円を達成している。
大至急、月100万個生産できる生産設備の設計に着手するように」
重要なミッションを必ず成功させたいと願い、私は試作状況と79.2円の計算根拠についてヒアリングを始めました。
すると、いくつかの重要な項目が原価計算から抜けていることに気付いたのです。
「あの・・・〇〇費も原価なのではありませんか?」
「すみません、うっかりしていました!」
数日後、試作チームから再度、提出された原価は79.9円でした。
「大丈夫です。目標80円は達成しています!」
しかし、金額のあまりの微妙さが気になって、
とうとう私は自分で原価計算をやり直してみようと決めました。
そうしなければ、目標80円を達成できる生産設備が設計できなかったからです。
すると・・・
80円が目標だった新製品の原価の実力は800円くらいになると思われました。
79.9円との差額の720.1円は、試験研究費の名目で販管費側に計上されていたのです。
「困ったことになったなあ」
この事実を試作チームに伝えると、こんなことを言われました。
「なぜ、吉川さんは真実の原価なんか計算して、私たちの邪魔をするのですか?
79.9円という報告で役員は喜んでいる。
それで良いではないですか。
それに、原価なんか、量産が始まれば勝手に下がるものでしょう」
「残念ながら・・・
差額の大部分は、高級な原材料の使用によるものですから、量産しても下がりません。
このまま月100万個の生産に突入したら大惨事です。
私にもアイディアはあります。
大騒ぎになる前に製品コンセプトを修正して、このプロジェクトを成功させましょう」
しかし
「非協力的でやる気がない」というレッテルを貼られ、私は解任されてしまったのです。
「敵対的」だと非難され、うっかり廊下ですれ違うこともできません。
「技術者のあなたに原価計算を語る資格などない。邪魔をしないでもらいたい」
でも、私は本当に本気プロジェクトを成功させたかったからこそ、
勇気をもって真実を申し上げたのです。
それから3年後、やはりこのプロジェクトは中止になりました。
開発チームの皆さんは散り散りになり、会社に居られなくなった方もいました。
会社も、大きな出費と3年の年月を失ったのです。
この事件をひとつのきかっけに
「原価計算を語る資格があるのか?」と言われた私(40歳の技術者)は、
会計士試験への挑戦という無謀な試みに突入していくことになります。
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