現場で見ていると、数字の扱いの「軽さ」が気になることがしばしばあります。
ある会社では、海外工場の生産性向を祝う催しが開かれていました。
生産技術部門の報告によれば10年で400%生産性が改善したというのですが、
400%の生産性って、なんだかイメージが湧きません。
製造部門の方に伺いましたが、何かが変わったという実感はないとのことでした。
経理部門の方に伺いましたが、P/Lにも変わりはないとのことでした。
何かがおかしい・・・
さらに調べてみると、10年で400%というのは、
年15%のカイゼンを10年間続けたという意味だと分かりました。
確かに1.15を10乗すれば、ほぼ4になります。
では、この年15%のカイゼンの実体とは何だったのか?
とうとう私は、生産性評価の基礎になっていた作業日誌と、
労務費支払いの基礎になっていたタイムカードを突合してみることを決意したのです。
しかし、作業日誌は月末締め、タイムカードは20日締めだったので、
10日分の調整をしなければ突合できません。
その海外工場の人事部門に依頼をすると
「膨大な作業なので不可能です」
自分で調整するのでデータをくださいなとお願いすると
「個人データなので出せません」
半年間もやりとりが続いた挙句、とうとう自分でその海外工場に出向いて作業することになりました。
やってみると、1時間程度で済む簡単な作業でした。
そして作業日誌側のデータが15%少ないことを見出したのです。
さらに調査を続けると、
15%のうちの5%分の作業日誌は補助作業という名目で除外されていました。
他の5%はカイゼン担当者の机の下から出てきました。
「少なめに時間を報告すれば本社は喜ぶし、本社が喜べば私たちもうれしい。いけないことでしたか?」
しかし、とうとう最後の5%(150人分)の作業日誌は見つからなかったのです。
支払いがあるのに作業実態のエビデンスがないという状況は、財務監査なら横領を疑わなければならない場面です。
状況を整理すると・・・
作業者は全員(3000人)が日雇いで、現地担当者が10年間もたった一人で手配をしていました。
そして、顔も分からない3000人分・1か月分の作業日誌を、たった一人の日本人駐在員が確認し押印していたのですが、
それはまず間違いなく盲印だったことでしょう。
実際に横領があったかどうかについては職権を超えていたので踏み込みませんでしたが、
いくつかの処方箋を示して、帰国しました。
1.作業日誌とタイムカードの締め日を揃えること
2.人の数を増やして、もっとしっかり作業日誌の確認をすること
3.日雇い作業者の手配を、たった一人の担当者に任せ切りにしないこと
4.カイゼンの効果があったかどうかは、タイムカード(労務費)で検証すること
5.異常があると感じたら、誰でも指摘ができる仕組みを作ること・・・
それにしても思います。
どうして財務監査で、この問題が発見されなかったのかと。
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