いつまでやるの? 7つのムダ取り

製造業のコストダウンに、有名なムダ取りセオリー(7つのムダ取り)があります。
これは、以下の7つのムダへの取り組みです。
①加工のムダ
②在庫のムダ
③造りすぎのムダ
④手待ちのムダ
⑤動作のムダ
⑥運搬のムダ
⑦不良・手直しのムダ
7つの頭文字を取って「かざってとうふ」と覚えなさいなどと言われてきました。

これはジャパンアズナンバーワンとまで言われた時代、日本の製造業が作り上げた一つの金字塔ですが、
昨今では、古い課題設定が様々な弊害を生じるようにもなってきました。

たとえば、
これらの無駄は、ほとんどが製造労務費に関わるものです。
このことから、日本のコストダウン活動は過度に労務費節減に偏っていたことが分かります。

ところが、
昨今の生産技術の高度化・標準化・自動化により、売上原価(≒製造原価)に占める直接労務費の割合は下がってきています。

その一方で、材料費の割合が顕著に高い事例が増えました。

以前、私がかかわったことのある職場では材料費が90%、労務費が5%程度でした。
上記の「7つのムダ」が設定された職場でも材料費が85%を超えており(2013年時点)、その比率は年々高まっています。

それにもかかわらず、日本のコストダウン活動が、
比率の低い労務費のムダ取りに偏っていたこと、
比率の高い材料費の合理的な調達に無関心だったことは、悲劇的です。
(都度都度調達するジャストインタイム購買が理想とされてきた)

昨今の日本のモノづくりの凋落は、
50年も前に設定されたムダを丸暗記して見直さなかった関係者の姿勢が引き起こしたものだったのかもしれません。

時々刻々と変化する原価の状況に応じ、柔軟かつ合理的に活動ターゲットを見定める必要がありますが、
この見定めは、製造活動から販売活動までを一体的に見渡せる正しい管理会計がなければできないことでしょう。

昨今の状況を踏まえ、私は以下の10のムダの点検を推奨しています。
(もちろん暗記する必要はありません)

★以下、変動費のムダ7つ
① 材料費のムダ(ゼロ在庫にこだわるムダ)
従来の「ゼロ在庫」に拘り過ぎることで購買戦略に失敗し、物価高騰と戦えなくなるムダです。
そもそもゼロ在庫は、工場の勝手な都合であり顧客志向の発想ではありませんでした。
それが売価と付加価値の低下を招いてきたのです。
これからは、顧客志向の発想で、在庫の最適化と付加価値の最大化を目指さなければなりません。

② 光熱費のムダ(場当たり的な省エネのムダ)
これからも光熱費はどんどん高騰していきます。
片手間な省エネを、会社存続を賭けた取り組みに変えなければなりません。
もちろんそれは、本当の脱炭素への道でもあります。

③ 変動労務費のムダ(古いムダ取りに埋没するムダ)
これは、いつまでも古いムダ取りにこだわって、新しい課題を設定できないムダです。
作業のムダや動作のムダの削減に期待される効果が小さくなっていることに注意しましょう。

④ 外注加工費のムダ(共倒れのムダ)
サプライチェーン上の優位にある会社が、自社の変革を先送りし、他社に過度のコストダウンやスコープ3の責任を押しつけることで、結果的に共倒れになっていくムダです。

⑤ 外注配送費のムダ(場当たり的な配送のムダ)
⑥ 販促費のムダ(場当たり的な販促のムダ)
技術のコモディティ化やデジタル化の進展で、会社間の製品の差は小さくなり、配送費と納期の超短縮、販促活動といったサプライチェーン全体の戦略的管理が重要になりました。
これらの活動に関わる費用が国内製造業の事業戦略から漏れがちだったのは、今までの会計が売上原価と販管費を一体的に管理してこなかったからです。

⑦ 在庫金利のムダ(工場外無関心のムダ)
「在庫を最適化しましょう」と提案すると、「在庫が増えればお金が寝る」と指摘されたりします。
しかし現実にお金が寝ているのは、目標とする「流動比率」が過度に高く設定されていたからであり、工場在庫の多寡とは直接的な関係がありません。

★以下、固定費のムダ3つ
⑧ヒトに関わる固定費(固定労務費のムダ/創造不毛のムダ)
これは、ヒトを過度にコスト扱いすることによって、自主的に動ける人材を育てることができずイノベーションが起こせないムダです。

⑨モノに関わる固定費(減価償却費のムダ/会計不毛のムダ)
これは、設備投資に関わる意思決定を、会計的手法(IRR法)によらず勘と気合等で行うことにより、設備投資プロジェクトを失敗させてしまうムダです。
設備投資で失敗すると挽回は困難です。
日々、どんなに細かく変動費のムダ取りをしても、設備投資がずさんでは全く意味がありません。

⑩カネに関わる固定費(資本コストのムダ/株主不在のムダ)
これは、資本コスト(特に自己資本コスト)が考慮されず、経営革新が遅れてしまうムダです。
しばしば指摘されてきた「在庫が寝る=お金が寝る」よりも遥かに深刻で、資本主義社会の成り立ちの根幹にすら関わる重大な問題です。

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